アイレスト・ヨガ・ニドラを知るには、実際にご自身で体験してみるのが一番です。
ですがそれに加え、異なるバックグランドを持ち、悩みも目的も違う方々の体験を知ることで、より深くアイレスト・ヨガ・ニドラを理解することができるのではないかと思います。
「インタビューで知るアイレスト・ヨガ・ニドラ」では、アイレストを実際に体験してくださった、様々な方々のインタビューをご紹介していきます。
記念すべき第一回のインタビューは、アイレスト・ヨガ・ニドラの4日間の入門講座にご参加いただいた、臨床心理士の石上友梨さんです。
Q: 臨床心理士でありながら、ヨガ講師の資格をお持ちになっていますが、そもそもなぜヨガに興味を持たれたのですか?
もともとヨガは趣味で習っていたのです。
ただ、以前働いていた勤務先では身体を動かすのが好きなクライアントさんが多かったこともあって、カウンセリングも通常のカウンセリングのように、頭、認知ベースでアプローチするだけではなく、身体から、ボトムアップでアプローチするスキルも持っていた方が、いろいろな方を支援できるのではないかと思ったのです。
加えて、ちょうどその頃、海外ではトラウマに対して身体からアプローチをするという手法、トラウマ・センシティブ・ヨガというものが盛んになってきていたこと、また私自身、ヨガをやっていく中で、「身体が変わると気持ちも変わる」ということを体感したことも、ヨガ講師の資格を取得するきっかけとして大きかったと思っています。
Q:「身体が変わると気持ちも変わる」 体感とはどのようなものだったのですか?
まだ心理職公務員として働いていた時のことですが、たまたま陰ヨガのクラスに参加したのです。
そのクラスでは、ひとつのポーズにじっくり時間をかけてやっていたのですが、その時、ポーズが変わると呼吸が変わるということを実感したのです。そして何より印象的だったのは、「1回休んで、その後もう1回取り組んだ方が、ポーズが深まることがありますよ」と言われたことです。実際にポーズをやって、チャイルドポーズなど1回休みをいれた後、もう1度ポーズをとった時の方が、ぐっと身体の柔軟性が高まりました。
この陰ヨガのレッスンの帰り道、呼吸がとてもしやすく、すがすがしくて、「あぁ、いいヨガだったな」「休みって大切なんだなぁ」って自分の身体の変化からすごく実感したのです。
Q 日本では心理療法のアプローチとして、身体からのアプローチはどのくらい浸透しているのですか?
その方面に詳しい先生は、海外では身体からのアプローチが盛んになりつつあるということをご存知だったり、また日本にも持ち込もうと活動をされている先生もいらっしゃると思いますが、まだまだマイノリティですし、実際に取り入れていらっしゃる先生は少ないと思います。
Q 身体からアプローチする良さをどう感じていらっしゃいますか?
どちらが良いというより、どちらがその方に向いているかということだと思います。
トップダウンから、頭、理論からアプローチする方がすっと入る方もいらっしゃると思いますし、ボトムアップからアプローチするほうがすっと入る方もいらっしゃると思います。
ただ、私が個人的に思うのは、バランスが大切ではないかと。
トップダウン、頭からだけではなく、ボトムアップ、身体からの情報も大切で、両方の疎通性を良くすることが良いのではないかと思っています。
クライアントさんの中には、心と身体が乖離してしまっている方もいらっしゃいます。しかし元々、心と身体はつながっていますから、どちらからも刺激を入れて、そのズレを少なくしていくのが大切なのではないかと思います。
それに、頭では認めたくない、受け入れ辛いことでも、身体からの声だと意外と素直に受け入れられたりします。また、心理療法のカウンセリングを受けるとなるとハードルが高いと感じる方も多いと思うのですが、ヨガを通してとかだと受けやすいというか、ハードルが低くなるように思います。
Q:アイレスト・ヨガ・ニドラに興味を持たれたきっかけは?
オーストラリアにトラウマ・センシティブ・ヨガを学びに行くためにネットで「オーストラリア、トラウマ、ヨガ」で検索していた時、「アイレスト・ヨガ・ニドラ」もでてきたのです。その時初めてアイレスト・ヨガ・ニドラというものがあることを知りました。
その後、私自身はトラウマ・センシティブ・ヨガの研修を受けにオーストラリアに渡ったのですが、頭の片隅にアイレスト・ヨガ・ニドラがずっと残っていたのです。
個人的には、トラウマ・センシティブ・ヨガとアイレスト・ヨガ・ニドラには共通している部分があると思っています。一番大きな共通点は、「無理をしない」「自分にとって心地よい方向にもっていく」ところです。
例えば、自分が腕を上げたいと思ったら、先生の指示に従うのではなくて、自分が感じるがままに手を上げるというか、ここまで上げたいならここまで上げるし、ここまでしか上げたくないならここまでにするとか、そういう自分の心に聴いて、自分の動きたいように動いてみる、自分の心の変化に気づくというところなどは似ていると感じます。
Q: 石上さんからみた、アイレスト・ヨガ・ニドラの特長とは?
まず、アイレストは、様々な心理療法が取り入れられて、プログラムがしっかりしていると思いました。
心理療法でももちろんいきなり「あなたのトラウマは何?」という質問はしないわけです。やはりその人が持っているリソースを確認したりとか、もし不安感が強かったら、安心感とか安全感を確認したりとか、そういうベースをしっかり作ってから、ちょっと辛いところにも目を向けていこうという感じで入っていきます。
アイレストも同じで、最初にしっかりリソースを作ってから入っていきます。安全なステップになるようプログラムがしっかり考えられていると感じました。
次に、自分自身でまだ意識できてない部分、無意識の部分にアクセスできる方法として、アイレストは有効なのではないかと思いました。
私自身、普段は臨床心理士として、認知、理性に働きかける心理療法をベースにカウンセリングを行っているのですが、クライアントさんの中には自分で意識できている部分の外、自分自身でまだ意識できていない部分に問題が潜んでいる方が多いのではないかなと感じることがあります。アイレストは、そういう意識のもう一段先、もう少し奥の、自分がまだ気づいていないところにアクセスしている感じがしました。
私自身、その分野の専門ではないので専門の先生に怒られるかもしれませんが、それは昔、私自身が受けた催眠療法と同じところにアクセスしている感じでした。あくまでも私個人の体感ですが。
Q実際、アイレストのワークショップを体験されてみていかがでしたか?
実は今回フユコ先生のアイレストのワークショップを受けていた時、サンカルパがポンっと浮かんだのです。
それは今までの頭で考えたものではなく、もっと心の深くから出てきたような感覚で、やっぱりこれかぁって自分自身腑に落ちるものがあって……。
今まで、自分の本当の願いを理性が邪魔して気づけていなかったのかなぁっと。やはり理性で考えるものとはちょっとズレがあって、実は薄々自分でも気づいている気がするのです。でも認めたくないというか、それじゃなくて、もっと現実的なものがあるだろうって理性で思っていたところがあって。でも、今回アイレストを体験し、やっぱりこれかと腑に落ちました。「あぁ、そうだよね、認めます」っていう感じです。
改めて、今まで「サンカルパ(心からの願い。大願)」を頭で考えていたということに気づかされました。
でもアイレストによって、心の奥の方にあったものに気づけたことはすごいなって思いました。多分、今回アイレストを受けなかったら気づかなかったと思います。そういう意味でも私にとって衝撃の体験でした。
あと個人的に取り入れていきたいと思っているのが、「対極の感覚や感情を体験する」というワークと、ホムンクルスに沿ってボディスキャンする方法(*1)です。
「対極の感覚や感情を体験するワーク」をアイレストで学んだ後は、例えば「不安だ、不安だ、どうしよう」という時、ただ「不安を受け入れよう」とか、「不安とありのままに一緒にいよう」というだけではなくて、不安と反対の安心も、今の自分の中にあるのかなぁと探して、「あっ、ちょっと安心もあるな」と。「それなら一緒に、同時に感じよう」ということを、私自身でもやるようにしていて、あっ、すごい効果があるじゃんって(笑)。
あと、ボディスキャンをする時、ただ、足先から順番にするより、ホムンクルスに沿って、口から順番にしていった方が、集中しやすい、入りやすく、すごく良いと思いました。
Q 日本人にとってのアイレスト・ヨガ・ニドラとは?
日本人の中には 「〇〇〇すべき」と、理性的に考えて心からの願いがズレている人が多いと感じます。
個々の個性というより、こうあるべきというか、社会的な望ましさというか。
自分の理想に対しても、幼少期より外側から与えられたものの積み重ねがいつの間にか自分の理想になってしまっていたり、自分の本当の願いに変わって、うわべの自分の願いにすり替わってしまっていたりします。
ヨガをやっている方の中にも、ヨガの正しいポーズとか、先生と同じポーズをとるべきとか、キレイにやるべきとか。また自分は身体が固い柔らかいとか、周りの方と比較したりしている方も多いのではないかと感じます。
でもヨガというのは本来そういうものではないし、自分をよりよくする、心と身体の乖離を小さくし、心と身体をつないでいく、という意味でもアイレスト・ヨガ・ニドラは日本人に有効なのではないかなと思っています。
ただ精神疾患を持っている方は、注意が必要かと思います。お医者さんと必ず相談して行った方がよいと思います。
(*1)身体の領域ごとにそのエリアからくる感覚の入力の量または重要性に応じて脳でどのくらいの表面積を示しているかを示した図。アイレスト・ヨガ・ニドラでは、感覚な豊かな部分(口)から全身に意識を巡らせていく。
(取材/文:岡見京子)
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石上友梨(いしかみ・ゆり)さん
臨床心理士/公認心理士/ヨガ講師
大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む。認知行動療法に基づいたカウンセリングを実践する中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、行政機関等でカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガの講師、ライターとして活動中。