【対談】iRestとヨガニドラ-意識、瞑想、健康回復について

~iRestとヨガニドラを通じて見出した、意識、瞑想、健康回復についての、リチャード・ミラーとの対話~ 

文:デール・ニーリー
「LA Yoga Magazine – Ayurveda & Health」2014年11月11日掲載

 

私は、初めてのワークショップでリチャード・ミラーと一緒に、これまで経験したことのない意識状態になりました。長年、公私にわたってリチャードを知っている私は、彼の日常生活と彼の教えは同じであり、彼が世界中で最も信頼され尊敬されているヨガ教師の一人であるということをお伝えしておきます。リチャードは、有名な非営利団体である国際ヨガ療法協会(IAYT)の共同創設者であると共に、深遠なヨガ瞑想としてのヨガニドラの現代的な実践法であるiRestの開発者としても知られています。

 

まず初めにiRestについて説明していただけますか?

リチャード・ミラー:iRestは、数千年前に遡る古代の瞑想法ヨガニドラを現代に適用したものです。私は、紀元前4500年前の、原初的なやり方を踏襲しました。その実践は、人々の関心を集め、集中力を高め、出会いから積極的に学び、身体感覚や感情、思考のすべてを満たし、人間としての自分自身に関係することに焦点を当てるものです。それはまた、自分自身のみならず、宇宙全体を通じて、相互に関係しあうことをも体験するようサポートしています。iRestの本質は、人間としてのあらゆるレベルの愛、優しさ、思いやり、親切心に目覚めさせてくれる実践法なのです。

 

iRestはヨガニドラとどう違うのでしょうか?

リチャード・ミラー:iRestは現代社会に適応するよう、古典的なヨガニドラとはいくつかの点で異なっています。ヨガニドラを学んだ後、私はヨガの授業に参加して瞑想を学びたいと思っている人たちを中心に教えていました。ですが長年教えているうちに、より広い範囲の、より世俗的な人々に広めることに興味を持ちはじめました。そして私は、インドの伝統的なイメージを取り去りながら、古典的なヨガニドラの古典的なスタイルを作り始めました。人々にイメージや色、形を押し付けるのではなく、生徒たちに、身体のさまざまな部分や感情、思考などに関心を向けたときの経験について尋ねるようにしたのです。私はヨガニドラを深い自己探求の方法として教え、人々が自分自身の深い部分に触れられるようサポートしていきました。私はPTSDと診断された現役の軍人や退役軍人、ホームレスのシェルターにいる人々、そして依存症や回復センターにいる人々と共にこのワークを始めたとき、私は古典的な実践方法に様々な要素を追加していきました。たとえば、古典的なヨガは、「サンカルパ」と呼ばれる意図から始まるのですが、私はこの単一の意図を3つの側面に分けました。

1.ヨガニードラの特定の練習における意図。

2.人生における意図。

3.インナー・リソース、私たちの幸福と安らぎについての意図、または内なる感覚。

この3つ目のインナー・リソースは、ある種のトラウマを経験した人々にとって特に有用であることを私は発見しました。

そして、より深く実践していくにつれ、安全や安心感、そして安らぎという内なる聖域に身を置きながら、不安を呼び覚ますような思考や感情に触れることができるようになるのです。

 

ヨガニドラと初めて出会ったとき、あなたの人生にどんなことが起こったのですか?

リチャード・ミラー:1970年に私が初めて東海岸からサンフランシスコに移住した時のことです。いろいろな人に出会う手段として、私はヨガのクラスを受講しました。最初の授業の終わりに、先生は初歩的なスタイルのヨガニドラを教えてくれて、そのなかで私は自分自身との深い繋がりを経験し、宇宙全体とひとつになっている感覚を味わいました。この体験で、私はまるで自分のホームに帰ったように感じ、とても深遠な衝撃を受けたのです。私は10代の頃に多くの鬱や分離感を経験したのですが、ヨガニドラは今この瞬間に私を自分のホームへと導き、ヨガニドラの実践をさらに深く探求していくという現在の道へと私を導いてくれたのです。

 

iRestが導くこの意識状態について、どのように説明できますか?

リチャード・ミラー: 一般的な瞑想の研究だけでなく、私たちが行ってきたiRestを用いた研究によると、ヨガニドラを実践しているとき、多くのことが起こっています。たとえば、セロトニンやオキシトシンなどの脳内麻薬が、脳や体中を刺激し、自然と高い喜びや幸福感をもたらしてくれます。あなたの脳の中で、自己の感覚、自己像、自己批判を創造する場所をみることができます。私の友人であるゲイリー・ウェバーは、「ほにゃららネットワーク」と呼び、他の人は「デフォルトネットワーク」と呼んでいますが、そこではオフラインになります。脳のこれらの部分は鎮まり、自己参照的な思考は停止します。同時に、「プレゼントセンタードネットワーク(現在中心的ネットワーク)」を形成する脳の他の部分がオンラインになります。これらの分野は創造的思考や洞察などに関係しています。ヨガニドラでは自己対話が減速し創造性と洞察力が生き生きとしはじめます。また、脳が身体全体の修復と回復の過程を通じて免疫システムを向上させ、全体的な幸福感を高め、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などのストレスに関連した症状を軽減し、夜はぐっすりと眠れるようになります。

 

退役軍人とのiRestのワークでは、トラウマやPTSDにどのような影響を与えたのでしょうか?

リチャード・ミラー: 多くの人々、特に軍隊は瞑想やヨガニドラに対し懐疑的な見方をしています。ですが、実践についての科学的根拠を提示すると、懐疑主義とヨガニドラを経験し自らの第一の効果を経験する意欲との間のギャップを埋めるのに役立ちます。あなたの質問に対する最良の答えの一つは、VAセンター(退役軍人センター)での最近の経験です。PTSDと外傷性脳損傷(TBI)を経験した退役軍人に対し、iRestのクラスを提供するよう求められました。彼らは重傷を負い、しばしば6~9ヵ月以上治療を受けている重度の抑うつ状態の退役軍人です。私はこうしたグループにiRestを教えたのですが、最後に受講者の一人に感想を尋ねた時、「家に帰ってきたような感じがします」と答えました。これはiRestを経験した人の結果としてよく聞く感想です。iRestの実践は、こうした人々がひどい傷や記憶を癒やすことを助けてくれます。PTSDの影響の一つは、自分自身が周りの世界から切り離されたような感覚として現れることがわかっています。彼らはヨガニドラの実践を通じて、自分と周囲の世界とを再接続し、最終的には戦争から帰ってきて、自分自身や家族、日常生活にたどり着くことを体験できるようになりました。

 

初めて取り組む方への提案はありますか?

リチャード・ミラー: どんな練習でもそうですが、意図を持って実践することです。なぜこのワークをしたいのか、そこから何を得たいのか、日常生活にどのような変化をもたらしたいのか、というあなたの意図を書き出してみてください。次に、初歩的な練習によって、意識を身体を通じて知覚し、何度も循環させてください。その感覚を体験していくにつれ、それだけで思考が遅くなり、深い回復とリラックス効果が得られます。ゆっくりと徐々に実践を進めていってください。身体の感覚を楽しみながら、さまざまな呼吸による誘導の方法を会得し、感情や思考をどう扱えばよいかや、深い喜びと幸福感を育む方法を学びましょう。ヨガニドラはまず最初の意図から始まり、次に段階的に学習して日常的な実践を進めていきます。数分で開始し、段階的に構築していきます。また、熟練した教師を見つけて、声で指導してもらうことも重要です。

 

iRestの将来についてのビジョンはありますか? 

すべてのヨガや瞑想の先生が、iRestやその他の形態のヨガニドラを学び、その実践の要素をクラスに取り込むことができればと思っています。ヨガニドラを学んだことがない人にも、ヨガニドラを体験し、日常生活における実践の方法を知ってほしいと思っています。また、すべての病院と退役軍人センターがiRestを支援のための方法として提供するようになり、多くの人々が生活の中で健康や癒し、ウェルビーイングの効果を実感してほしいと思っています。

ヨガ療法は、近年どのように変化しているとお考えですか?

ヨガ療法はますます主流となりつつあり、多くの人々がそれを代替医療として求めるようになってきています。

1973年に私が教え始めたとき、ヨガを理解する方はほとんどいませんでした。ですが、今では、教師やヨガセラピストとしての私たちの課題は、ヨガの素晴らしい効果と有効性を発揮することで、人々の生活や専門家の状況に合わせてヨガを実践、教育および統合したいと考えている人たちにアピールすることです。当初はアサナ、プラーナーヤーマ、ヨガニドラについて、ほとんど研究が行われていませんでした。人々が参照できるように論文を増やし続けていくことは私のライフワークとなりました。

「まあ、ヨガというのは「信じなさい」というようなものではなく、人々の身体のあらゆるレベル、心、精神に深い影響を与えるものなのです」

 

ヨガとともに、瞑想もまた人々にとっての主流となりつつあります。私はヨガの先生方が、彼らが関わっているヨガの伝統に深く感謝し、教えているすべてのクラスにどのような形であれ瞑想を組み込んでほしいと思っています。ヨガの分野では、瞑想の伝統が豊富にあります。ヨガニドラは、教師が生徒のために瞑想を体系的かつ容易に学習できる方法を提供する、ヨガ瞑想の一形態です。特にiRestおよび、一般的なヨガニドラは、実践が簡単なうえに、瞑想への入り口としては非常に洗練されていて、精妙なものです。私は、人々が幸福感、喜び、愛、自分自身とのつながり、人間関係、そして私たちを取り巻く世界との関係についてより良い影響をもたらしてくれる瞑想なしには、人々が生きることはできないと考えています。

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